単胃動物栄養学の世界的権威であるハンス・H.シュタイン博士へのインタビュー “もし、南米の中で、より技術的に進歩している国はどこかと尋ねられたら、私はチリだと答えます”

2024年8月22日

2011年からイリノイ大学で動物科学の教授をつとめる著名なハンス・H.シュタイン博士は、チリカルネ主催、DSM-フィルメニッヒ(動物の栄養と健康に関わる世界的巨大企業)協賛による「豚および家禽類栄養学セミナー」のためにチ […]

2011年からイリノイ大学で動物科学の教授をつとめる著名なハンス・H.シュタイン博士は、チリカルネ主催、DSM-フィルメニッヒ(動物の栄養と健康に関わる世界的巨大企業)協賛による「豚および家禽類栄養学セミナー」のためにチリを訪問した。セミナーは、6月末に、チリ大学獣医・畜産学部の講堂で開催され、豚や家禽類といった単胃性生産動物種の腸の健康や動物福祉、生産効率を高めるための栄養や飼料の配合に関する知識の最新化や革新的な戦略が主たるテーマとなった。

ハンス・シュタイン博士は、単胃動物栄養学の世界的権威である。彼の研究や調査は、腸内生理学や新たな成分および栄養素の評価に焦点が当てられており、豚にとって消化の良いカルシウムとリンの特定の栄養学的要件を定めようとすることで認められている。チリカルネとの独占インタビューでは、この地域においてこれらのテーマがどのように進展しているのかについての自らの見解を明らかにし、豚の管理とより良い飼料の実現について、チリの生産・輸出セクターの企業に助言を提供してくれた。博士は、その中でも特に、「フィターゼについて話しをしました。子豚の離乳後6週間でそれを使用するメリットについて話をしました。このことは、ここチリでは新しい話だと思います。この技術を使う企業はそれほど多くありません。それを利用することはメリットで、利用可能な技術なのです」と述べた。

  • 南米、特にチリで、こうしたテーマについて進展させることは可能だと思いますか?

豚や鶏の生産は、南米全体で増え続けています。というのは、人々の購買量が徐々に高まっており、これらの製品の消費量が増えつつあるからです。一方、デンマークは、スペイン語圏9か国全体よりも多くの豚を生産しています。こうした事柄すべてに、地元の技術的レベルを加味すると、生産を増やすチャンスが多くあることが分かります。また、中国やアジアの国々では、より多くの豚が求められています。

  • ヨーロッパや米国と比較して、南米ではどのように栄養学は進展したでしょうか?

南米は、ヨーロッパや米国、アジアと同等の遺伝学的情報を持っています。ただ、私は、南米の栄養士は、私たちが米国で新たに得ている技術や知識を導入するのが少し遅いと感じています。例えば、私は、カルシウムとリンの消化性について、チリのセミナーで話をしました。ただ、その情報を現在利用しているこの地域の国々はとても少ないと思います。世界中でその情報が利用可能であるにもかかわらずです。なぜ変える必要があるのかを示す先例と共に、技術や資料はあるのです。米国では、企業はより素早く変えています。なぜなら、コスト削減に高い関心があるからです。もし、1トン当たり50セント削減できるのであれば、そうなるよう、必要な変更を促すのです。

チリは、他の南米諸国とは違っています。なぜなら、この国では豚を生産する企業の大半が、自社の豚を加工しているからです。そのため、彼らは、チャンスがあれば、より素早く決定をくださなければならないのです。もし、南米で、より進んだ国はどこかと尋ねられたら、私はチリと答えます。私たちが訪問した企業は、とても高いレベルの技術や知識を有しています。南米では、例えば、米国や他の国の営業チームがやって来て、栄養士に、もっともと思われる主張と共に製品を紹介すると、それが本当に自分たちの役に立つのかしっかりと尋ねることなく、もしくは、そうした主張を裏付ける研究を確認せずに購入を決めるという傾向が多く見られるようです。それから、多くの添加物を使って、それが本当に必要なのか深く調べないというのがあります。こういったことは、チリでは目にしませんでした。多分、統合生産をしているからでしょう。そうなると、同じ企業なので、ある特定の添加物を本当に使うメリットがあるかどうかを調べることができるのです。米国やスペインと同じくチリでは、統合された企業であり、また、同じ生産レベルを持っています。これは、南米の中でチリの大きなメリットです。それが、チリの養豚・豚肉産業がより進んで見える理由の一つです。しかし、常に、栄養面で、さらに良くする、また、利用可能な新たな技術を導入する機会はあるのです。

  • チリで行われたセミナーでのあなたのプレゼンテーションでは、カルシウムとリンは、生産効率、例えば、粒子の大きさを小さくすると、エネルギーの消化性を向上させるとか、または、押出成形がエネルギーの消化性を高めるといったことと関係していると提起されました。具体的にこうしたテーマにおいて進展することを、企業にどのように推奨しますか?

ここでどの大きさの粒子が使われれているのか分かりません。400や500ミクロンだと良いでしょう。ここの企業の大半は、まだペレット状を使っていると思います。それゆえ、その技術を持っていて、うまく活用しています。別の技術は、酵素についてです。多くの企業が酵素を利用し、これもメリットです。フィターゼについて話をしました。子豚の離乳後6週間でそれを利用するメリットについて話をしました。このことは、ここチリでは新しい話だと思います。この技術を使う企業はそれほど多くありません。それを利用することはメリットで、利用可能な技術なのです。カルシウムについて重要なことは、食事に含まれる量を量り、多すぎるとよくないことを理解し、もし企業がフィターゼを使うなら、全体の食事でカルシウムの量をもっと減らす必要があることを理解することです。これは、どんな企業もすぐにできることで、それほど難しいことではありません。これは、それほど一般的ではありませんが、速やかにできることです。もしカルシウムが多すぎるなら、減らす必要があり、いずれにしてもカルシウムを少なくする方が良いことを理解する必要があります。カルシウムを減らせば、豚の摂取は増え、体重が増えます。従って、企業はこの栄養素の経費を削減することができるでしょう。やはり統合企業が存在する米国では、これらのテーマが導入されています。スペインの企業や、フランスでもいくつかの企業は導入しています。その他のヨーロッパでは、生産者がより小規模で、ここのように統合されていません。

  • 豚の栄養に関する次のステップ、もしくは、前進は、どのようなことでしょうか?何に注目すべきでしょうか?

企業が、現在幅広く使っておらず、ライムギや小麦といった競争力のある成分を購入することができるか、チリのような国々で、それを購入、または、栽培することができるかです。また、キャノーラについても話題になっています。これは大豆粉ほど高価ではないので、それを使うことも推奨できます。企業として、飼料の価格を下げることのできる成分を探すことが重要だと思います。なぜなら、それが、最大の生産コストだからです。

次に、トウモロコシや大豆といった既に知られている成分を評価するシステムを持つことです。しかるべき品質を持っていること、想定通り栄養素として役割を果たすことを確実にするためです。例えば、ヨーロッパでは、ブラジルから大豆粉が多く輸入されています。しかし、多くの場合、正しく乾燥する、もしくは、全体を乾燥させる能力を持っておらず、発酵していて、時にヨーロッパに品質の悪いものが届くのです。様々な品質の大豆があり、ブラジルから良い品質が届くことも多くあります。それゆえ、機会のある毎に評価することが重要です。配合に関しては、アミノ酸、リン、カルシウム、安定化された消化の良いものすべてで行うべきです。私は、これらがもっとも良い選択肢だと思います。すべての栄養素を十分に取り入れ、添加物については批判的であるべきです。添加物を使わないようにと言っているのではありません。なぜなら、良い物や役立つものも多くありますが、同時に、それほど役に立たないものもあるのです。もしある添加物に科学的データがなければ、それを使う価値はなさそうです。米大陸の多くの国々では、こうした業務の方法は存在せず、もっともと思われる主張やプレゼンテーションで企業を説得するものの、科学的データを持っていないサプライヤーがいるのです。企業は、セールスマンに、そうしたデータが準備できてから、また来てくださいと言わねばなりません。企業は、大学を通して、食事や成分の研究を拠り所とすべきです。また、この点において、企業が独自のデータを持つことも好ましいです。しかし、こうしたデータが独立機関によって実証されたものであれば、さらに好ましいでしょう。フィターゼについてのように。フィターゼは、機能すると分かっています。少なくとも大手企業のフィターゼはそうです。栄養士の仕事も、こうした科学的データを求めることとつながっています。

  • 現在、大学と民間部門の間で、どのような共同研究が推進されていますか?

現在私たちは、いくつかの大学と研究を行っています。ヨーロッパの2大学、デンマークの1大学、そして、スペイン、カナダ、コロンビア、フィリピン、ニュージーランドのそれぞれ1大学とです。大学は様々な点に焦点を当て、また、専門も様々です。それゆえ、彼らと研究を進めることはとても好ましいのです。私たちは、大学だと、こうしたテーマを進めるために大きな投資も、高額な機材も必要としないことに気が付きました。むしろ、関心があるかどうか、そして、研究を進めるための小さなスペースと小さなラボがあるかどうかといったことがポイントとなります。実際のところ、それが必要とされるすべてです。例えば、私は、少し前に、ボゴタにいたのですが、彼らは、私たちが米国で使っているのとまったく同じ機材を使って研究しています。ラテンアメリカの国々では、多くの場合限界は、研究者たちが、できると考えないことにあるのです。彼らが、できないと考えてしまうことを私たちは目の当たりしました。米国では、その逆です。できるかどうかを検討し、決定を下すのです。これは、物事を行う方法に関わる慣習の問題です。彼らは、“恐くない、やってみよう”と言わなければなりません。南米では、“確かに可能だろうが、多分、この種の研究を具体的に実行するのは自分たちにはとても難しいだろう”と考えがちなのです。

何年も前に私が始めた時、多くの企業に呼びかけ、“私はこうしたアイデアを持っている。それはとても良いものだと思う。資金が必要です”と言いました。ダメだと言われた場合も多かったのですが、大半の企業は“イエス”と言ったのです。これは、大学が資金調達先を探す方法です。私は、南米の教授たちは、企業とコンタクトをして、こうした研究のための資金調達先を探す戦略を持っていないのだと思います。

  • 多くの成分や添加物、そして、酵素のような製品も、中国で製造されたものを中国から購入している地元の企業があります。あなたは、栄養の質や酵素の機能性を考えた上で、中国市場で製造された製品によって、何らかの追加的な防御策をとることを推奨しますか?

先にお話ししたことと同じです。多くの場合、中国製品には、科学的なデータや資料がありません。例えば、もしフィターゼを持っていて、もっと安い場合、質が良いかもしれませんが、良くないかもしれません。従って、彼らに、科学的なデータはどこにあるのかを尋ねることが重要です。時に中国では、中国産のフィターゼを使いたくない場合もあります。それが役に立たないからです。世界中で活動をし、中国に進出している定評のある企業は、他の国々と同じ品質を保っています。そのことに、とても気を配っています。

  • あなたは、チリ訪問でどのような見解を持ちましたか?特にチリの企業に向けて、何らかのメッセージがありますか?

チリは、養豚において、南米の中でもっとも進んだ国だと思います。しかしまた、生産者や企業は、重要な課題を抱えています。なぜなら、穀物の大半を輸入する必要があり、すべての穀物を調達することに競争力のある国は世界でそれほど多くないのです。これは、ここチリの産業にとって課題です。しかし一方、チリは、より品質の高い製品を生産する方法を見つけたことが分かりました。それゆえ、輸出に成功し、それによって、ここでは、穀物コストの高さを埋め合わせることができるのです。それが、多くの穀物を持っているブラジルやカナダよりもコストが高い、ここチリの秘訣です。またもう一つの秘訣は、企業がチリカルネに加盟し、個々の企業としてではなく、企業が一緒になって、チリポークという業界ブランドの下で輸出を行っていることです。これは企業に大きな力を与えてくれます。またチリは、輸出方法について、米国よりもヨーロッパの国々の影響をより大きく受けていると思います。

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